楽曲の成り立ちを紐解く上で欠かせないのが、クリープハイプ「陽」の制作背景です。当時、バンドを取り巻く環境は大きな変化の最中にありました。映画主題歌や大型タイアップを手掛け、フェスのヘッドライナーを務めるなど、メジャーシーンの中心で眩いスポットライトを浴びる機会が急増していた時期です。
当時の音楽雑誌のインタビューやラジオ番組において、尾崎世界観は「光」というテーマに対する複雑な胸中を赤裸々に吐露しています。元来、自身のコンプレックスや世間への違和感、人間関係の摩擦といった「陰」の感情を燃料にして独自のロックを鳴らしてきた彼にとって、「陽」という直球の言葉を曲名に据える行為は、ある種の自己矛盾や恐怖との対峙でもありました。
「明るい場所へ行こうとするほど、自分が引きずっている影の濃さに気づいてしまう」――。尾崎世界観のインタビューで語られた「陽」に関するニュアンスには、世の中に溢れる安易な応援歌への強い警戒感と、光のなかに取り残された個人の孤独に対する真摯な眼差しが滲み出ていました。最初から太陽のように輝いている人間ではなく、薄暗い部屋の片隅から光に手を伸ばしては火傷をしそうになる、そんな不器用な生活者の視線から生まれたのが本作だったのです。