「湾岸署」という響きを聞いた瞬間、1990年代後半に社会現象を巻き起こした織田裕二氏主演の刑事ドラマ『踊る大捜査線』を思い浮かべる人は少なくありません。ドラマに登場した架空の警察署「警視庁湾岸警察署」が、後から現実世界に誕生したという経緯は、日本の警察行政史においても類を見ないエピソードです。
発端は、東京湾岸エリアの急速な再開発でした。臨海副都心としてお台場や有明、豊洲地区の人口・来訪者が爆発的に増加する中、海上警備を主としていた東京水上警察署(港区海岸に所在)の管轄体制では陸上エリアの治安維持に限界が生じていました。そこで警視庁は東京水上警察署を改編・発展的に統合し、品川署・深川署・城東署などの管轄区域を再編して陸海を一元管理する新設署の立ち上げを決定したのです。
2008年3月31日の開署にあたり、新設署の名称をどうするかについてのアンケートが実施された際、地元住民や一般公募から圧倒的な支持を集めたのが「湾岸署」の呼称でした。警視庁内部では当初「臨海警察署」や「東京ポート署」といった案も議論されましたが、最終的には親しみやすさと地域認知度の高さから「東京湾岸警察署」が正式採用されたという経緯があります。フィクションが現実の都市インフラの命名に影響を与えた象徴的な事例と言えます。