警察が個人の私的トラブルへの関与を避ける姿勢は、一般に民事不介入の原則と呼ばれます。これは単なる警察の怠慢や事なかれ主義ではなく、近代法治国家における憲法上の要請と組織法上の厳格な規定に基づいています。
警察の責務を定めた警察法第2条第1項では、警察の任務を「個人の生命、身体及び財産の保護並びに犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持」と規定しています。しかし同時に、同条第2項において「警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲内に限るべきものであつて、その責務を遂行するため必要な最小の限度において行われなければならない」と定めています。
戦前の警察が国民生活の隅々にまで介入し、私権を過度に侵害した歴史的反省から、個人の契約関係や家族関係といった私法上の争いには公権力が立ち入らない「私法自治の原則」が確立されました。根本的な刑事事件と民事事件の違いを整理すると、以下の通りです。
刑事事件は「社会全体の法秩序を乱した犯罪者に対し、国家が刑罰を科す手続き」であり、被害者の金銭的回復を直接の目的とはしていません。これに対して民事事件は「私人間の権利義務や損害賠償を巡る争いを、当事者同士または裁判所を通じて解決する手続き」です。つまり、私人間の貸金返還や契約トラブルは裁判所(民事司法)の領分であり、行政機関である警察が一方の代理人として取り立てや権利行使を行うことは法律上禁じられています。