土手の伊勢屋の暖簾をくぐった客が最初に直面する選択が、名物天丼のグレード指定です。メニューには一般的な「並・上・特上」ではなく、江戸の風情を色濃く残す「イ・ロ・ハ」の符丁が刻まれています。この3段階は単なる盛りの大小ではなく、使用される主役食材の構成と調理アプローチが根本から異なる設計となっています。
最大の見極めポイントは、同店の象徴である「活〆穴子」が入るか否かです。「イ」には穴子が含まれず、海老2本、きす、いかなどを中心とした端正な構成であるのに対し、「ロ」からは丼の縁を豪快にはみ出す大ぶりの穴子が鎮座します。さらに最上位の「ハ」になると、朝締めの特大穴子に加え、季節ごとの旬魚(春の白魚や稚鮎、秋口のハゼなど)や小柱のかき揚げ、海老が贅沢に盛り込まれ、器の蓋がまったく閉まらない圧倒的な標高を誇ります。
油は香ばしい純正ごま油を独自比率でブレンドし、高温で一気に揚げ切るため、衣はカリッとした香ばしさとタレを吸ったしっとり感が同居しています。門外不出の漆黒の丼つゆは、甘辛さが凝縮された濃厚仕立て。この伝統のタレが衣の奥深くまで浸透しており、淡白な白身魚や力強い穴子の旨味を力強く引き立てます。