野村昭子という名前を聞いて、多くの視聴者が真っ先に思い浮かべるのが二つの伝説的ドラマシリーズです。
一つは、橋田壽賀子脚本のホームドラマの金字塔『渡る世間は鬼ばかり』の青山タキ役です。岡倉大吉が営むお食事処「おかくら」の頼れる古株従業員であり、時には頑固な大吉にズケズケと意見し、時には傷ついた娘たちを温かく包み込む「お母さん代わり」として、第3シリーズ(1996年)から長年にわたりレギュラー出演。タキさんの発する小気味よい江戸弁と慈愛に満ちた笑顔は、視聴者にとって絶対的な安らぎの象徴でした。
もう一つの代表作が、市原悦子さん主演の大ヒットサスペンス『家政婦は見た!』の大沢家政婦紹介所会長・藤間春江役です。市原さん演じる主人公・石崎秋子をはじめとする個性豊かな家政婦たちを束ね、彼女たちが依頼先の家庭から持ち帰るスキャンダルに眉をひそめつつも、絶妙な相づちで噂話に花を咲かせる名掛け合いは番組の名物シーンでした。市原さんとは私生活でも深い信頼関係で結ばれており、互いの演技論を戦わせる盟友の間柄でした。
どちらの役柄にも共通していたのは、「決して主役を食いすぎず、しかし画面にいないと全体の輪郭がぼやけてしまう」という、名バイプレイヤー特有の圧倒的な存在感でした。