仁兎なずなを語る上で避けて通れないのが、夢ノ咲学院の歴史を揺るがした『追憶*マリオネットの糸の先』で描かれた旧Valkyrie時代の悲劇です。
学院の帝王として君臨していた天才芸術家・斎宮宗は、仁兎なずなの類まれなる美貌と天使のようなボーイソプラノに魅了され、自らの芸術を完璧に再現するための「最高傑作の人形」としてユニットに迎え入れました。当時、宗の意向によってなずなはステージ上で自らの意思で言葉を発することを禁じられ、あらかじめ指示された通りに歌い踊るだけの存在となっていたのです。
しかし、思春期を迎えた少年に訪れたのが「声変わり」という不可逆の身体的変化でした。美しく澄んだ高音が出なくなったなずなに対し、完璧主義者である宗は「生歌ではなく、録音済みのなずなの声をスピーカーから流し、ステージ上では口パクをさせる」という非情な手段を選びます。
この決断は、宗なりの「なずなの傷つきやすい心を庇護し、芸術の完璧性を保つための愛」でもありました。しかし、なずなにとっては「歌う権利を奪われ、生きている人間としての存在を否定された」に等しい深い絶望を刻み込む結果となります。
やがて学院内の勢力図を塗り替える天祥院英智の計略(ドリフェス改革)により、Valkyrieはステージ上で音源トラブルに見舞われ、惨敗を喫します。口パクの音源が途絶えた瞬間、なずなは「自分は人形ではなく、血の通った人間として自分の声で歌いたい」と痛感。宗の敷いたレールを降り、自らの足で立ち上がるためにValkyrieを脱退するという決死の選択を下しました。