園芸家を悩ませる最大の疑問の一つが、「春や夏には卵なんて見かけないのに、なぜ冬だけ卵が現れるのか」という点です。ここには、アブラムシが地球上で最も繁栄した害虫と呼ばれる所以である、驚異的な単為生殖と産卵の仕組みが隠されています。
気温が高く餌が豊富な春から秋にかけて、アブラムシの集団は全て雌だけで構成されています。この期間、彼女らは交尾を一切行わず、自分自身のクローンとなる雌の幼虫を体内で育てて直接産み落とす「胎生(たいせい)単為生殖」を連続稼働させています。幼虫として産まれた個体はわずか1週間前後で成虫になり、再び子を産み始めます。この驚異的なサイクルにより、理論上1匹の雌から1ヶ月で数千匹、1シーズンで数億匹規模へと幾何級数的に膨れ上がるのです。
しかし、氷点下近くまで気温が下がる過酷な冬の寒波と食草の落葉には、水分を多く含んだ成虫の体では耐えられません。そこで秋口、日長時間の短縮と気温低下を感知したアブラムシは、突如として有性世代となる「雄」と「有性雌」を産み分けます。彼らは交尾を行い、体内の水分をグリセロールなどの耐寒物質に置き換えた高密度の「受精卵」を産卵します。この卵こそが、氷点下の厳寒期でも凍結することなく生命を維持できる防寒シェルターなのです。
特に被害が集中するバラのアブラムシ越冬卵や果樹(ウメ、モモ、リンゴなど)において、母虫たちは春に最も早く展開する「新芽の付け根」や「枝の分岐部」をピンポイントで狙い撃ちにして産卵します。越冬場所と潜伏の真相を追及すると、風雨に晒されにくい樹皮の亀裂や芽鱗(がりん:冬芽を包む鱗片)の奥深くへと巧みに潜り込んでいる実態が浮き彫りになります。春に孵化した瞬間に目の前に広がる極上のごちそう(新芽の汁)を吸えるよう、親虫が緻密な計算のもとに配置しているのです。