肉が劇的に柔らかくなる最大の要因は、麹菌が生み出す消化酵素「プロテアーゼ」にある。東京農業大学名誉教授であり発酵学の権威として知られる小泉武夫氏が長年提唱してきた通り、発酵の力は食材そのもののポテンシャルを何倍にも引き上げる。肉に塩麹をまぶすと、このプロテアーゼが筋繊維を構成する強固なタンパク質を容赦なく分解していく。網目状に絡み合っていた繊維がほどけ、隙間が生まれるのだ。
さらに公益財団法人日本醸造協会の研究報告などが示すように、酵素分解の副産物として大量のアミノ酸(グルタミン酸など)が遊離する。つまり、硬い肉の結合組織を破壊して保水力を高めると同時に、人工的な調味料では到底出せない奥深い旨味を内部に生み出す仕組みだ。パサつきやすいオージー・ビーフやアメリカ産牛の赤身が、噛むたびに肉汁を溢れさせる理由がここにある。