日本の住宅環境で見かける種すべてが同様に飛ぶわけではない。家屋侵入の代表格である大型のクロゴキブリは、発達した頑丈な翅を持ち、屋根や壁の高い位置から下方に滑空する能力に長けている。ベランダ伝いに隣家から飛来するケースの多くはこの種だ。
一方、飲食店や厨房に群生する小型のチャバネゴキブリにも翅は存在するが、飛翔筋が退化しており、自力で宙を飛ぶことはまずない。落ちるときにわずかに羽ばたいて落下速度を緩める程度だ。
圧倒的な飛行力を見せつけるのが、南方から都市部へと生息域を広げているワモンゴキブリである。成虫の体長が4センチを超えるこの大型種は、滑空にとどまらず、下から上へと自力で羽ばたいて上昇する本格的な飛翔能力を誇る。下水道や地下街から温かい夜気を突いて飛び立つ姿は、目撃者に強烈な悪夢を刻み込む。