プリツカー賞建築家・坂茂の思想が細部まで息づくこの空間は、既存のデザイナーズホテルの文脈を完全に更新した。彼が率いたスイデンテラス建築プロジェクトの核にあるのは、過度な主張を排し、山形の原風景に寄り添う抑制の美学だ。
エントランスを抜けると、紙管を用いた独特のアーチ天井が来訪者を迎える。温かみのある木材のスリットから差し込む光の陰影。木造建築としてのしなやかさと、幾何学的な厳密さが交錯する。坂茂は自然災害の被災地支援でも知られるが、その根底にある「素材への誠実な眼差し」が、この宿の梁一枚、柱一本にまで色濃く宿っている。周囲の田園に溶け込み、四季折々の水面が反射する光を建物内部へと招き入れる構造は、都市の喧騒に疲弊した現代人の神経を解きほぐす装置としても機能している。