海援隊の代表曲として知られる『思えば遠くへ来たもんだ』は、1978年9月にシングルとしてリリースされました。当時の日本は高度経済成長の熱狂が一段落し、地方から都市部へ移り住んだ若者たちが自らのアイデンティティと孤独に直面していた時代です。
本作の歌詞の意味を紐解く上で欠かせないのが、作詞を手がけた武田鉄矢氏が抱いていた「取り残された者の焦燥感」です。フォークブームの中で『母に捧げるラスト・バラード』のヒットを放ちながらも、その後は長い低迷期を経験。キャバレー回りや地方公演で全国を旅しながら、夜汽車や見知らぬ町の片隅で感じていた孤独、二十代後半という青年期の終わりを迎える焦燥が生々しい情景描写となって結実しています。
一番の歌詞に描かれる「二十歳そこそこ」の頃の淡い恋心と、旅先で出会う無名の風景。それは単なる観光旅行のスケッチではなく、後戻りのできない人生の一方通行を自覚した大人の痛切な独白です。山川啓介氏の補作詞、山木康世氏(ふきのとう)の作曲による素朴で美しいメロディが、言葉の持つ哀愁をさらに際立たせています。