キノコ毒がもたらす破壊力は、教科書的な医学用語だけでは伝わりきりません。救急指定病院の集中治療室(ICU)に勤務する医師は、「患者が口にする『まさかこれほど苦しいとは思わなかった』という言葉を、これまで何度聞いてきたか分からない」と現場の深刻さを証言します。
特に特異なドクササコ中毒症状について、過去に誤食事故から生還した男性が自費出版の手記で残した告白は、読む者に戦慄を与えます。
「食べた直後は何ともなく、むしろ汁物にして美味しくいただいた。しかし5日後の夜、突然両足の先が熱した鉄パイプを押し当てられたような激痛に襲われた。夜も眠れず、氷水に足を浸し続けなければ狂気で発狂しそうになる。痛みのあまり足の爪を壁に打ち付けて耐えたが、その灼熱地獄は3週間以上もまったく治まらなかった」
ドクササコに含まれるアクロメリン酸は、末梢神経の特定の受容体に不可逆的な変化をもたらし、通常の医療用鎮痛薬やモルヒネですら除痛が極めて困難とされます。致死率は低くとも、日常生活を完全に破綻させる精神的・肉体的苦痛が長期にわたって続くのです。
さらに恐るべきは、近年里山や都市近郊の緑地で目撃が相次ぐカエンタケの症状です。鮮烈な赤やオレンジ色をした角状・指状のキノコですが、生物兵器の原料としても知られる強力なトリコテセン系毒素を含有しています。誤食した場合は数時間で消化器粘膜が破壊され、高熱、めまい、多臓器不全、さらには小脳の萎縮による運動機能障害や脱毛、皮膚の剥脱を引き起こします。そればかりか、樹液や汁液に素手で触れただけでも皮膚が炎症を起こしてただれるため、見かけても絶対に触れてはなりません。