「雨の日の黒部ダムは景色が見えないので行くだけ損」という言説は、ネット上で広く見られる誤解の一つです。もちろん、台風レベルの豪雨や全山が濃霧に包まれて視界ゼロの場合は行動制限がかかりますが、通常の雨や曇天時だからこそ現れる圧倒的な自然美と迫力が存在します。
まず筆頭に挙げられるのが、毎秒10立方メートル以上もの水が一気に噴出する「観光放水」のダイナミズムです。雨によって黒部川の水量が増すと、放水の勢いや水煙のボリュームが増大し、霧に煙る立山連峰を背景に轟音を響かせる姿は、晴天時を凌ぐほどの重厚感と凄みを生み出します。
さらに、北アルプスの険しい断崖絶壁に幾筋もの白い滝が突如として現れる「雨天限定の無名滝」や、深いエメラルドグリーンの湖面を静かに這う山霧(ガス)のグラデーションは、水墨画のような幽玄の世界を創り出します。晴天の爽快感とは一線を画す、大自然の厳しさと神秘的な静寂を体感できるのは、雨天時に足を運んだ者だけの特権です。
ただし、雨の日の観光を快適に楽しむためには「傘だけに頼らない雨具の準備」が必須条件となります。ダムの展望台外階段(220段)やえん堤上は強風が吹き抜けるため、傘を差すと煽られて骨が折れたり、視界を塞がれて転倒したりする危険があります。両手が自由になるセパレートタイプのレインウェアやマウンテンパーカーを着用することが強く推奨されます。