家庭料理の現場ではびこる誤解のひとつに、「生姜を最初からたっぷり入れれば下処理を省略できる」という俗説があります。前述の通り、生姜の芳香成分はマスキング効果(匂いを感じにくくする効果)しか持たず、揮発性アミンの分解能力はありません。下処理を省いて生姜を増量すると、生臭さと生姜の刺激臭が混ざり合った不快な風味を生み出す原因となります。
もうひとつの盲点は「大根の面取りと隠し包丁の過信」です。「面取りをしたから強火でも大丈夫」と過信して強火で加熱すると、面取りした角からではなく側面全体から亀裂が入って崩れていきます。面取りはあくまで対流による摩擦を軽減するための補助輪であり、丁寧な火加減の維持こそが主役です。
さらに、「あらを水から煮た方が出汁が出る」という言説も大きな誤りです。水から加熱すると魚のタンパク質がゆっくり凝固するため、表面に皮膜ができず旨味が煮汁に抜けすぎて身がスカスカになります。具材の旨味を残しつつ味を含ませるには、温まった調味液に具材を合わせることが調理科学上の正攻法です。