機関銃を乱射した直後、煙の立ち込める部屋で恍惚とした表情を浮かべ呟く「カ・イ・カ・ン」。長年、ネット上やファンの間では「あまりの銃撃の反動に驚いた薬師丸ひろ子のアドリブだったのではないか」という噂が囁かれてきました。しかし、赤川次郎氏の原作小説および田中陽造氏の手掛けた決定稿台本を照合すると、明確な事実が浮かび上がります。
原作小説には「カイカン」という言葉自体は存在せず、主人公・星泉の乾いた心情が描かれているのみでした。一方、田中陽造氏の脚本にはト書きとともに「カイ……カン」というセリフが明確に印刷されていました。つまり、言葉そのものは計算された脚本によるものです。しかし、あの歴史的な「間」とトーンを生み出したのは、現場で起きた予期せぬ極限状態でした。
敵対する浜口組の事務所へ殴り込み、M3サブマシンガン(通称グリースガン)を撃ちまくるクライマックス。美術スタッフが仕掛けた破片効果用の火薬と、天井から吊り下げられた酒瓶やガラス板が激しく破裂しました。その際、粉砕されたガラスの破片が薬師丸ひろ子さんの左頬と鼻梁を直撃したのです。
鮮血が頬を伝う中、彼女は激痛に怯むことなく、銃口を構え続けてカメラを睨み据えました。メガホンを取る相米慎二監督も「カット」の声をかけず、緊迫した沈黙がスタジオを支配します。死線を超えた女子高生が、極限の緊張から解放された瞬間に絞り出した吐息――それが、映画史に残る「カ・イ・カ・ン」の正体でした。本編を精査すると、彼女の顔に実際に走る一筋の血と、痛みに耐えながら陶酔へと転化させた真に迫る表情が確認できます。