インターネット上の言説やドラマの描写では、「近代的な新政府軍」対「刀と槍に頼る旧態依然とした幕府軍」という極端な二項対立で語られるケースが少なくありません。しかし、これは歴史的事実と大きく乖離しています。
実は、開戦直前の軍事力そのものは旧幕府軍の方が先進的だった側面があります。
第一に、海軍力です。幕府海軍はオランダ製最新鋭スクリューフリゲート艦「開陽丸」をはじめ、圧倒的な艦隊戦力を誇っていました。新政府側は開戦当初、これに対抗できる大型軍艦をほとんど持っていませんでした。もし1868年11月に開陽丸が江差沖で暴風雨により座礁・沈没していなければ、箱館戦争の戦況は全く異なる展開をたどっていた可能性があります。
第二に、陸軍の近代化訓練です。幕府はフランスから軍事顧問団(シャノワーヌやジュール・ブリュネら)を招聘し、最新のナポレオン式歩兵戦術を叩き込んでいました。横浜の太田陣屋などで訓練を受けた幕府歩兵隊(伝習隊など)の戦闘力は非常に高く、北関東や会津の野戦において新政府軍を幾度も撃退しています。
では、なぜ敗れたのか。最大の敗因は「兵器の性能」ではなく、「国家としての財政破綻」と「同盟の脆弱さ」でした。薩長が豪商からの資金調達や英国との貿易ルートを確立して弾薬を安定補給できたのに対し、旧幕府側は各藩の財政が底をつき、長期戦に耐えうる補給路を構築できなかったのです。
【プロの結論】組織マネジメントの視点から見出すべき歴史的教訓
歴史社会学および組織論の観点から戊辰戦争を分析すると、現代の企業や組織が直面する「崩壊のパターン」が恐ろしいほど如実に現れています。
旧幕府軍の決定的な敗因は、最高指導者であった徳川慶喜の「現場放棄」でした。鳥羽・伏見の戦いの最中、前線で奮戦する将兵に無断で側近のみを連れて軍艦で大坂から江戸へ逃亡した行為は、組織論における「指揮官の当事者意識の欠如」に他なりません。どれほど優秀な現場部隊(伝習隊や新選組)が存在しても、トップが理念と責任を放棄した瞬間、指揮系統は機能麻痺に陥り、組織全体がパニックへ直滑降します。
一方の新政府軍は、公家である岩倉具視や三条実美を名目上のトップに立てつつ、実質的な軍事指揮権を現場叩き上げの西郷隆盛や大村益次郎に完全に委譲していました。「大義名分(ビジョン)」と「現場への権限委譲(アジリティ)」が機能した組織が、旧来のヒエラルキーに縛られた大組織を打ち破った事例と言えます。
【変革期において生き残る組織・淘汰される組織の条件】
- 生き残る組織の条件:時代のルールチェンジを敏感に察知し、過去の格式や成功体験を捨てて現場に決断権限を委譲できる組織。
- 淘汰される組織の条件:規模や形式的な優位性に慢心し、危機発生時にトップが責任を回避してコミュニケーション不全に陥る組織。