ネット上の言説において時折「覇王別姫はレスリー・チャンの遺作である」という誤認が見受けられますが、これは明確な誤りです。本作が公開されたのは1993年であり、レスリー・チャンがこの世を去ったのは2003年4月1日です。遺作となった映画は2002年の『カルテ』であり、本作は彼が俳優としてのキャリア黄金期に遺した不滅の代表作と位置づけるのが正確です。
レスリーはこの程蝶衣役を演じるにあたり、撮影開始の半年前から北京に滞在し、京劇界の重鎮に師事して過酷な身体訓練を受けました。日常の立ち振る舞いから指先の細やかな表情、発声に至るまで徹底的に女性の京劇役者を憑依させ、現場の共演者やスタッフを驚嘆させたという逸話が残されています。
また、対峙する菊仙を演じたコン・リーの圧倒的な存在感も見逃せません。娼婦としての逞しさと、蝶衣への嫉妬、そして同じ孤独を抱える者としての母性的な憐憫を巧みに表現し、物語に重層的なリアリズムをもたらしました。