魚へんに春と書く「鰆」の真実|なぜ冬も旬?出世魚の謎を解く

魚へんに春と書く「鰆」の真実|なぜ冬も旬?出世魚の謎を解く

魚へんに春と書く「鰆」の真実|なぜ冬も旬?出世魚の謎を解くについて知っておくべき ポイントを厳選して解説いたします。

「魚へんに春と書くのに、なぜプロの料理人は『鰆は冬が最も美味い』と口を揃えるのか」。この長年囁かれる疑問の背景には、産卵サイクルに伴う身質の劇的な変化と、関東・関西における食文化の違いが横たわっています。

サワラの旬と美味しい時期は、実は1年に2回訪れます。冬の12月から2月にかけて外洋で脂を蓄える「寒鰆(かんざわら)」と、春の3月から5月にかけて産卵のために接岸する「春鰆(はるざわら)」です。この2つは、科学的にも全く異なる肉質特性を持っています。

文部科学省の「日本食品標準成分表」や水産研究所の定点観測データによると、サワラの筋肉中脂質含有量は季節によって激しく上下動します。冬の厳寒期、外洋を回遊して丸々と太った寒鰆の脂質割合は12〜15%以上に跳ね上がり、マグロの中トロに匹敵する濃厚なコクを帯びます。身は白濁し、包丁を当てると刃に脂がネットリとまとわりつくほどです。この時期の寒鰆は、刺身や炙り寿司、塩焼きにすることで極上の脂の甘みが口いっぱいに広がります。

対して春鰆は、産卵を控えてエネルギーが真子(卵巣)や白子(精巣)へと移行するため、身自体の脂質は5〜8%程度まで減少します。身質は水分を含んで柔らかく、しっとりとした淡白な味わいへとシフトします。脂の乗りを最上と見なす東京・関東の市場では寒鰆が絶対的な高値で取引されるのに対し、京都をはじめとする関西の料亭文化では、脂が抜けて上品さを増した春の身を西京味噌に漬け込む「西京焼き」や、真子の煮付けを春の風物詩として尊んできました。「春の風情をめでる関西」と「冬の濃厚な脂を愛でる関東」。この嗜好の二重構造こそが、旬に関する混乱の真相です。

山下 哲也
著者

山下 哲也

デジタルガジェットとスマート家電の検証記事を多数執筆。失敗しないモノ選びを提案します。