「寝ているときの顔は見られないから問題ない」という認識は、取り返しのつかない外見的変形を招く大きな誤算です。就寝時を含めた慢性的な口呼吸は、顔面骨格の発育と歯列のアーチ形状に決定的なダメージを与えます。
正常な口腔機能下では、舌が上顎の裏側を内側から外側へ押し広げる力(内圧)と、唇や頬の筋肉(口輪筋や頬筋)が外側から歯列を押さえる力(外圧)が精妙な均衡を保っています。しかし、口呼吸によって常に口が開き舌が下がった状態が続くと、内側からの支持を失った上顎歯列弓は両頬の筋肉に圧迫されて横幅が狭まり、前方へ押し出されるようにV字型に変形します。これが、口呼吸による歯並びの悪影響の典型である上顎前突(出っ歯)やすきっ歯、上下の前歯が噛み合わなくなる「開咬(オープンバイト)」の発生プロセスです。
とりわけ成長期から成人期にかけて見過ごせないのが、アデノイド顔貌の特徴として知られる骨格変化です。鼻咽腔にあるリンパ組織「咽頭扁桃(アデノイド)」の肥大や慢性鼻炎によって長期的な口呼吸を強いられた結果、下顎骨の下方・後方への回転が固定化され、以下のような特徴的な容貌が形成されます。
顎顔面矯正を専門とする歯科医の臨床報告では、成人に達してから骨格的なアデノイド顔貌を完全に修正するには、外科的顎矯正手術(セットバック手術等)を伴う大規模なアプローチが必要となるケースも報告されています。就寝中の無自覚な開口習慣は、容貌の美しさや若々しさを年単位で静かに侵食していくのです。