ハルノ宵子の真骨頂は、晩年の吉本隆明を誰よりも近くで支え続けた壮絶かつユーモラスな介護生活にある。巨知・隆明が視力を失い、身体の自由が利かなくなっていくなか、実家で父と同居し、身の回りの世話から食事の管理までを一手に引き受けたのは彼女だった。
思想家としての隆明が執筆を続ける傍らで、家の中には無数の保護猫たちが闊歩していたという。猫に囲まれたカオスな居間で、気難しくも愛らしい父と対峙し続けた経験は、彼女の人間観察力をさらに研ぎ澄ませた。「偉大な思想家」ではなく「頑固で愛嬌のある一人の父親」としての隆明の日常を、彼女は冷徹な眼差しと溢れる愛情をもって見つめていたのである。