昭和から平成初期にかけて、大学病院を中心とする一部の医局では、10万円から数拾万円単位の謝礼金が「裏の相場」として語られた時代が確かにあった。当時は教授選の資金や医局の運営補助、若手医師の研究費という名目で、半ば暗黙の了解として受け取られていた背景が存在した。しかし、そうした悪しき慣例は完全に過去のものと化している。
現在、全国の大病院や大学病院の受診窓口には「職員への心付け・謝礼は一切固くお断りいたします」という告知が明確に掲示されている。もし医師が個人で金品を受け取ったことが発覚すれば、懲戒処分や最悪の場合は解雇、あるいは医師生命を絶たれるリスクすら伴う。病院側のコンプライアンス監査は極めて厳格化しており、受け取り拒否の姿勢は決して「形だけのポーズ」ではない。医師が頑なに封筒を突っぱねるのは、冷淡さゆえではなく、自らの立場と医療機関の社会的信用を守るための至極当然の防衛策なのだ。