江渡貝弥作の精神構造を語る上で欠かせないのが、母親からの精神的虐待と鶴見中尉による徹底的なマインドコントロールです。
生前の母親は江渡貝に対して極めて厳格かつ否定的な態度を取り続け、「お前は何もできない」「私を失望させるな」と自己肯定感を徹底的に削ぎ落としていました。江渡貝が遺体を剥製にして自室に留め置いた行動は、死後もなお母の承認を渇望し、同時に母の支配から逃れられない「毒親による心理的トラウマ」の具現化にほかなりません。
そこに現れたのが、他者の心の隙間に入り込む天才・鶴見篤四郎(鶴見中尉)でした。鶴見は工房の人皮細工を見ても一切動じず、それどころか「素晴らしい技術だ」「君は美しい」と江渡貝の存在そのものを全肯定します。さらには人皮の肩当てを自ら身につけ、「江渡貝くぅぅん」と情熱的に抱きしめることで、彼の枯渇していた承認欲求を一瞬で満たしました。
心理学における「心理的境界線(バウンダリー)」が完全に崩壊していた江渡貝にとって、鶴見は母の代償どころか、自分を救い出してくれた絶対的な救世主(神)へと昇格したのです。この歪んだ共依存関係こそが、彼を危険な金塊争奪戦の最前線へと駆り立てる原動力となりました。