かつてのひじき煮といえば、醤油と砂糖で濃いめに煮詰められ、箸でつまむと大豆の皮が破れてボソボソしている……そんなネガティブな記憶を持つ人も少なくないだろう。だが、近年の調理科学の浸透が、そのイメージを完全に覆した。
「昔のように長時間コトコト煮詰める必要はありません。素材が持っている水分を活かし、短時間で蒸し煮にするのが現代の主流です」と語るのは、都内で和食割烹を営む料理人だ。乾物は戻しすぎず、大豆は煮汁が冷めていく過程で中心まで味を含ませる。油でしっかりコーティングしてから出汁を回しかけることで、ひじきはみずみずしい弾力を保ち、大豆はふっくらと艶を帯びる。かつての「日持ちさせるための濃味」から、「素材の旨味を味わうジューシーな常備菜」へと、調理の文法そのものが刷新されたのだ。