「戦後最大の未解決ミステリーにおける真犯人は誰なのか」という問いに対して、現在最も有力視されているのが、米軍の諜報機関が暗躍したGHQ関与説である。当時、日本を実質的に支配していた連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の内部は一枚岩ではなく、民主化を推進する民政局(GS)と、反共工作や諜報活動を主導する参謀第2部(G2、チャールズ・ウィロビー少将)の間で凄まじい権力闘争が繰り広げられていた。
その渦中で暗躍していたのが、G2の秘密工作組織であるキャノン機関(ジャック・キャノン中佐率いる部隊)と、その配下で動いていた旧日本軍の軍人・特務機関員たちで構成された組織「亜細亜産業」である。ノンフィクション作家の松本清張が『日本の黒い霧』で鋭く切り込み、ジャーナリストの矢田喜美雄が丹念に追跡したこのルートは、単なる陰謀論では片付けられない数々の物証と証言に裏打ちされている。
当時、亜細亜産業の代表を務めていた矢板玄氏の周辺や、ライカビル(キャノン機関のアジト)の存在、そして下山総裁の遺体から検出された「ヌカロー(米ぬかから抽出したワックス成分)」が現場近くの民間塗料工場ではなく、キャノン機関が出入りしていたドラム缶保管場所の塗料と一致したという記録は、事件が軍事的なプロの手による下山事件の黒幕の謀略であったことを強く示唆している。
彼らの動機は極めて明快だった。下山総裁を共産党系労組の過激派による犯行に見せかけて抹殺することで、国民の反共感情を一気に煽り、国鉄改革を強行し、左翼勢力を壊滅させることである。もしこれが事実であれば、下山総裁は米ソ冷戦構造の最初の犠牲者として選ばれたことになる。