1937年(昭和12年)5月10日、名古屋市に生まれた山口洋子さんは、裕福な環境で育ちながらも戦乱と戦後の混乱期をくぐり抜けました。上京後は東宝のニューフェイスとして芸能界へ足を踏み入れ、本名名義などで映画やドラマに出演。加山雄三主演の『大学の若大将』シリーズをはじめ、複数のスクリーンにその姿を残しています。
しかし、映画界の旧弊なシステムや理不尽な人間関係に縛られることを嫌った彼女は、早々に女優業に見切りをつけます。選んだ転身先は、戦後日本の富と権力が集中していた東京・銀座でした。1958年、若干21歳の若さで自身の会員制クラブ「姫」をオープンさせます。
弱冠21歳の女性が銀座の一等地に店を構えること自体が前代未聞の時代です。店内には川端康成、三島由紀夫、開高健といった文豪から、石原裕次郎、勝新太郎といった大スター、さらには政財界の巨頭たちが夜な夜な集いました。「姫」は単なる酒場ではなく、昭和の最高峰の知性と文化が火花を散らすサロンへと昇華していったのです。