旅行記や口コミサイトを調査すると、「軽いハイキングのつもりが地獄を見た」「膝がガクガクして途中で立ち往生した」という体験談が数多く見受けられます。なぜ多くの人がこれほどまでに疲弊してしまうのでしょうか。その最大の要因は、数字上のスペックと現場の構造がもたらす錯覚にあります。
第一に、稲荷山の最高地点である一ノ峰上之社の標高は233mに過ぎません。高尾山(599m)や比叡山(848m)などと比べれば数字上は圧倒的に低く、この低山という情報が参拝者の警戒心を完全に解いてしまいます。しかし、平坦な山道を緩やかに登る一般的な登山道とは異なり、稲荷山の参道はスタート直後から山頂直下まで延々と人工の石段が敷き詰められた構造になっています。
歩行計や現場調査に基づく稲荷山参道階段数と体力目安を検証すると、山頂を一周して戻るまでに踏破する石段の数は往復で約1,200段から1,400段に達します。これは東京タワーの非常階段(約600段)を2往復する運動量に匹敵する負荷です。しかも、長い歴史の中で参拝者の足元を支えてきた石段は、一段ごとの高さや踏み面の幅が一定ではなく、微妙な傾斜や摩耗による滑りやすさが足首や膝へダイレクトに疲労を蓄積させていきます。
さらに見落とされがちなのが、周囲を完全に朱色の鳥居で囲まれた特殊な視界環境です。どこまで登っても同じような朱塗りのトンネルが続くため、「自分が今どこにいて、あとどれくらい登れば着くのか」という距離感が失われやすくなります。脳がゴールを予測できないまま連続する急傾斜を登り続ける精神的ストレスが、肉体的な疲労感を倍増させる決定打となっているのです。