エアコンのセルフ清掃に踏み切った現場では、一体どのようなドラマが繰り広げられているのでしょうか。ネット掲示板や知恵袋、現役のエアコン清掃スタッフへの聞き取りから見えてくるのは、「手軽さ」という甘い言葉に誘われたユーザーの深い後悔です。
都内在住の30代男性は、当時の苦い経験を次のように振り返ります。「初夏にエアコンをつけたらカビ臭く、大手通販で高評価だった洗浄スプレーを2本買って熱交換器に吹きかけました。真っ黒な水が外のホースから出てきて『これで1万円浮いた!』と大喜びしたんです。ところが3日後、バチッと火花が散るような音がしてエアコンが停止。異臭が立ち込め、駆けつけたメーカー修理員に『内部基板に液が回って全焼しています。修理代は4万8,000円です』と宣告されました。浮かすどころか、最初からプロに頼んでおけばお釣りがきたのにと激しく後悔しました」
また、賃貸マンションに住む40代女性は水漏れトラブルに直面したといいます。「スプレーをして数時間後、ルーバーの隙間から茶色いドロドロの液体が滝のようにボタボタ垂れてきました。慌ててタオルを敷き詰めましたが間に合わず、お気に入りの北欧風ラグが汚水まみれに。結局ドレンパンの出口に古い汚れの塊が詰まっていたのが原因でした。洗浄剤の匂いとカビの腐敗臭が部屋に染み付き、数週間は頭痛が止まりませんでした」
現場を回るベテラン清掃業者に話を訊くと、次のような冷徹な事実を明かしてくれました。「お客様宅に伺うと、『実は去年、自分でスプレーをしまして……』と申し訳なさそうに言われるケースが本当に多いです。カバーを外すと、スプレーが届いた手前半分だけ中途半端に溶け、奥側にはヘドロが何層にも堆積している。私たちの業務用高圧洗浄機は、毎分約3〜4リットルの高圧水で内部を貫通させ、最終的にポリバケツ2杯分(約20リットル)の真っ黒な汚水を洗い流します。缶スプレーのわずか300mlの水圧で、あの頑固なバイオフィルム(カビの膜)が落とせるはずがないのです」