激変したハザードマップを受け、山梨県、静岡県、神奈川県は2026年に富士山噴火避難計画基本方針の大幅な改定に踏み切りました。その中核をなすのが、従来の常識を根底から覆す「原則徒歩避難」への転換です。
従来の防災計画では、溶岩流のスピードに対して自動車で安全圏まで退避するシナリオが想定されていました。しかし、改定マップによって火口候補地が増加し、到達時間が大幅に短縮された結果、住民が一斉にマイカーで避難を始めれば幹線道路が未曾有の大渋滞に陥るシミュレーション結果が導き出されたのです。車列が完全に身動きを取れなくなった路上を、背後から溶岩流や火砕流が飲み込むという最悪の惨事を防ぐため、行政は方針を大転換しました。
山梨県静岡県火山防災マップで示された新たな行動方針は、居住エリアや災害リスクごとに以下の明確なフェーズ分けを行っています。
- 火口から近く、溶岩流が短時間で到達するエリア(第1次〜第3次避難対象エリア):噴火の前兆段階(火山性微動や地殻変動が確認されたレベル3〜4)で、観光客や要配慮者、高齢者は事前に車で域外へ退避。噴火発生直後に残っている一般住民は、渋滞を避けるため徒歩での避難を原則とする。
- 溶岩流の到達まで24時間以上の猶予があるエリア:無理に即座の避難を開始せず、噴火地点や溶岩流の進路が定まるまで自宅や強固な建物内にとどまる(屋内安全確保)。
- 降灰のみが予想される遠隔エリア:道路渋滞を引き起こす不要不急の車移動を厳禁とし、自宅や職場での避難待機を徹底する。
地元自治体である富士宮市や富士市の担当窓口を取材すると、この「徒歩避難」の徹底には依然として現場レベルでの高いハードルが存在します。「寝たきりの高齢者や乳幼児を抱えた世帯が、本当に徒歩で数キロの坂道を登下山できるのか」「猛暑や厳冬期の荒天時に徒歩避難を強いる現実解はあるのか」といった切実な声が住民アンケートでも多数寄せられています。ハザードマップをただ眺めるだけでなく、家族の移動能力に応じた個別のタイムライン(マイ・タイムライン)を平時から策定しておくことが不可欠となっています。