イギリス国旗を注意深く観察すると、斜めに走る赤線(セント・パトリック・クロス)が、白い斜め線(セント・アンドリュー・クロス)の真ん中を通っておらず、微妙にずれて配置されていることに気づきます。この左右非対称(カウンターチェンジ)の構造は、作画ミスでも偶然の産物でもなく、極めて厳格な政治的配慮から生まれました。
もしアイルランドの赤い斜め十字をスコットランドの白い斜め十字のど真ん中に重ねてしまうと、白い十字は単なる「赤十字の縁取り(白い枠線)」に見えてしまいます。イングランドの赤い直交十字には既に白い縁取りが施されているため、スコットランドの十字も同じ扱いを受けると、歴史的に先約かつ対等な同盟者であったスコットランドの象徴性が著しく損なわれてしまいます。
そこで当時の紋章官たちは、「白の斜め十字」と「赤の斜め十字」が半分ずつ互い違いに主役の幅を分け合うという妥協案を生み出しました。時計回りに見ると、ある場所では白が太く、別の場所では赤が太くなるよう配置することで、両国の尊厳を平等に保ったのです。
この非対称構造があるため、イギリス国旗には明確な「上下」が存在します。正しい掲揚ルールは、「旗竿側(ポール側=向かって左側)の上部において、白い斜め線が赤い斜め線よりも上に位置している(白の幅が広い)状態」が正位置です。
上下を逆に掲揚することは、国際慣例上「遭難信号(SOS)」や「国家への侮辱・抗議」を意味するため、外交の場や公的機関では厳正な確認が行われます。民間のイベントや商業広告などでも、上下逆さまの誤掲揚は現地メディアで厳しく指摘されるポイントです。