「キムチを炒めると乳酸菌はどうなるのか」という問いに対するストレートな回答は、「生菌としては死滅するが、健康効果は決して消えない」です。 キムチに含まれる主な乳酸菌は植物性乳酸菌(Lactobacillus属など)であり、過酷な胃酸を生き抜いて腸に届きやすい強靭さを持っています。しかし、熱に対する耐性は決して高くありません。日本乳酸菌学会などの基礎研究データによれば、乳酸菌はおよそ50℃付近から活動が鈍化し、60℃で数分間、70℃以上では数秒〜1分程度の加熱でほぼ全滅します。フライパンで炒める際の調理温度は150℃〜200℃に達するため、炒め物の中の乳酸菌は例外なく「死菌(しきん)」へと変化します。
死菌は無意味ではない|バイオジェニックスの最新科学
ここで多くの人が「死んだ菌を食べても意味がない」と早合点しがちですが、近年の腸内細菌学においてその常識は完全に覆されています。腸内環境を整えるアプローチには、生きた菌を届ける「プロバイオティクス」のほかに、死菌や菌の代謝産物を直接摂取する「バイオジェニックス」という確立された概念があります。 死滅した乳酸菌の細胞壁に含まれる多糖体やペプチドグリカン、リポタイコ酸といった成分は、消化管で分解されずに小腸粘膜のパイエル板(免疫器官)に直接届きます。これが刺激となって免疫細胞(NK細胞やマクロファージ)の活性化やIgA抗体の分泌を促すことが数々の臨床試験で確認されています。さらに、死菌そのものが腸内にすでに存在する善玉菌(ビフィズス菌など)の極めて良質な「エサ(プレバイオティクス)」として機能するため、結果として腸内フローラの多様性を維持し、整腸作用を発揮し続けます。