本作の熱量を底上げした最大の要因は、主人公・壹岐正を演じた主演・唐沢寿明の鬼気迫る演技力だ。シベリアの極寒の地で11年間に及ぶ過酷な抑留生活を生き延び、帰国後に商社マンとして第二の人生を踏み出す男の苦悩と野望。唐沢は、飢餓と絶望に苛まれるシベリア編での痩せこけた凄惨な表情から、漆黒のスーツを纏い冷徹なビジネスマンへと変貌を遂げる姿まで、一人の人間の壮絶な半生を見事に演じ分けた。
山崎豊子の原作が持つ圧倒的な取材量と重厚なテキストに対し、唐沢寿明は台詞のない静寂のシーンにおいても、目線の揺らぎや吐息一つで主人公の内面を語り尽くした。撮影現場での役作りに関する裏話も凄まじい。過酷なロケーションに耐え抜くための肉体改造や、膨大な専門用語を完全に消化して臨んだ撮影姿勢は、共演者やスタッフを圧倒した。彼の凄絶な佇まいこそが、画面越しに視聴者を惹きつけ続けた磁場となったのだ。