物語の核をなすのは、奈落の底へ突き落とされた主人公の変貌ぶりだ。最初は純粋な愛情を注いでいた心優しき存在が、地獄のような裏切りを機に冷酷な軍略家へと覚醒する。感情に任せた愚直な怒りではなく、相手の弱点やプライドを計算し尽くした静かな罠を張り巡らせていく。
本作が数ある復讐劇の中でも頭一つ抜き出ている理由は、心理戦の高度さにある。嫉妬、執着、そして見栄。人間の泥臭いエゴを巧みに利用した愛憎サスペンスの仕掛けは、一瞬の隙も読者に与えない。罠が完璧にかみ合い、相手が自ら罠の奥深くに足を踏み入れるプロセスの描写は芸術的ですらある。