ファンの間で最も熱心に議論されたのが、壬氏役がドラマCD版の櫻井孝宏からアニメ版の大塚剛央へ交代した経緯です。当時、声優業界を揺るがした私生活の報道時期(2022年秋)と、アニメの企画進行期が重なっていたことから、ネット上では「スキャンダルによる降板劇ではないか」という見方が一気に拡散しました。
しかし、アニメーション制作の現場構造と関係者の証言を丹念に追うと、事態はそうした短絡的なゴシップだけでは説明がつきません。
1. 商業アニメ化に伴う「全役オーディション」の慣例
アニメ業界では、原作小説の特装版などに付属するドラマCDのキャストが、テレビアニメ化の際にそのままスライド起用されるケースは決して多数派ではありません。音響制作会社や音響監督が交代する場合、作品の世界観を一から再設計するため、原則として全キャストをオーディションで選考し直すのが通例です。実際に高順役も津田健次郎から小西克幸へ、玉葉妃役も日笠陽子から種﨑敦美へと実力派同士のバトンタッチが行われており、壬氏役だけが単独で差し替えられたわけではありません。
2. 壬氏の「実年齢」とキャラクター造形のリアリズム
音響制作の視点から指摘されたのが、キャラクターの年齢設定です。作中の壬氏は20代前半前後の非常に若く瑞々しい青年であり、外見の妖艶さと裏腹に、猫猫の前で見せる精神的な幼さやヘタレ感が物語のフックになっています。ドラマCD版の櫻井孝宏が見せた演技は完成された大人の色香が際立っていましたが、長期シリーズとなるアニメ版では「より青年の脆さや未熟さを自然体で出せる新世代のキャスト」が求められた結果、オーディションを勝ち抜いた大塚剛央が選ばれたという背景が存在します。