乳房の表面に現れる「ひきつれ」や「えくぼのような凹み」は、医学的に皮膚のくぼみえくぼ徴候(ディンプリングサイン)と呼ばれます。この現象がなぜ発生するのかを理解するには、乳房の解剖学的構造に目を向ける必要があります。
女性の乳房内部には、乳腺組織や皮下脂肪を胸筋の筋膜につなぎ止め、美しい丸みを維持するための結合組織であるクーパー靭帯の牽引が深く関わっています。通常、この靭帯は柔軟に伸縮していますが、乳腺内に悪性腫瘍(がん細胞)が発生して周囲組織へ浸潤を始めると、がん細胞特有の間質反応(線維化)によって周囲の組織を強力に引き縮めます。
この線維化にクーパー靭帯が巻き込まれると、皮膚が内側へ強く引っ張られます。その結果、外見上は皮膚が引きつれたり、ピンポイントで窪んだりする「ひきつれ」として表面化するのです。乳房ひきつれ原因の多くが悪性腫瘍による物理的な牽引であるとされるのは、この構造的連鎖が理由です。
乳がんの啓発活動などで公開される乳がん初期症状画像や乳房皮膚の変化写真を確認すると、真っ直ぐ立っている状態では目立たず、両腕を頭の上に高く挙げたときや、上半身を前に倒したときに初めて皮膚の表面に小さなくぼみが浮かび上がる様子が確認できます。皮膚の下にある腫瘍自体が小さく、指で触れてもしこりを感じにくい深部にある場合でも、靭帯を介して皮膚表面に歪みが生じるため、視覚的な変化は極めて重要な警告灯となります。