聖クリストファーが交通安全のシンボルとして選ばれる背景には、13世紀に編纂されたキリスト教聖人伝の集大成『黄金伝説(レゲンダ・アウレア)』に記された劇的な物語が存在します。もともとレプロブスと呼ばれた巨漢の男は、世界で最も強い王に仕えたいと願い各地を遍歴しました。悪魔さえも恐れる唯一の存在がキリストであると知った彼は、隠者の教えに従い、急流で命を落とす旅人を背負って対岸へ渡す慈善奉仕に身を捧げることになります。
ある嵐の夜、一人の小さな男の子が川を渡してほしいと頼んできました。男が子どもを肩に乗せて川に入ると、一歩進むごとにその重みは異常なまでに増し、激流の中で命の危機に瀕します。命からがら対岸にたどり着いた男が「まるで全世界を背負ったかのように重かった」と告げると、その子どもは「そなたは世界だけでなく、世界を創造した主を背負ったのだ」と明かしました。この体験から、男はギリシャ語で「キリストを背負う者」を意味する「クリストフォロス(クリストファー)」の名を授かったと伝えられています。
この聖クリストファーの伝説における川渡りのエピソードこそが、旅路の危険を乗り越える加護の原点です。メダイの表面には、杖をつきながら激流を渡る屈強な男性と、その肩に乗り地球儀や十字架を手にする幼子イエスの姿が刻み込まれています。外周に記された「SAINT CHRISTOPHER PROTECT US(聖クリストファーよ、我らを守り給え)」という言葉は、命がけの移動を強いられた中世の巡礼者から、高速道路を行き交う現代のドライバーへと受け継がれる普遍的な祈りの結晶です。