下痢に苦しむ療養者が最も陥りやすい危険な行動が、手元にある市販の強力な下痢止め(ロペラミド塩酸塩などの止瀉薬)を安易に飲んでしまうことです。ネット上の一部まとめ記事や掲示板では「下痢止めで無理やり止めて出社した」といった体験談が散見されますが、これは医学的に極めて危険な行為と言わざるを得ません。
現在生じている下痢は、ウイルスや腸内で異常増殖した有害菌、壊死した腸粘膜細胞、毒素を体外へ洗い流そうとする生体の防御排出機構です。下痢止めによって腸の蠕動運動を強制的に停止させてしまうと、体外へ出るべき病原物質が腸管内に長時間滞留することになります。その結果、毒素が血管から再吸収されて症状が悪化したり、腸管の異常拡張や麻痺性イレウス(腸閉塞)を引き起こしたりするリスクが高まるのです。
また、「熱が下がればウイルスはいなくなり、他人にうつす心配はない」という誤解も根強く残っています。しかし、現実は異なります。
インフルエンザウイルスは、解熱後も数日間にわたり気道分泌物中に排出され続けます。さらに、排便時におけるトイレ内の環境汚染にも警戒が必要です。下痢便を流す際の水流によって微小なエアロゾルが飛散し、ドアノブやペーパーホルダーを介して家庭内感染を広げるケースが確認されています。解熱後であっても、下痢症状が治まるまではトイレの蓋を閉めて流す、入念な石鹸手洗いを徹底するなど、衛生管理を緩めてはなりません。