俗語として広く定着した「寝落ち」とは、本来であればパジャマに着替え、寝室の照明を消して布団に入るという入眠準備を経ることなく、何らかの作業やコミュニケーションを行っている途中で意図せず眠りに落ちてしまう現象を指します。読書中の沈下、動画視聴中の意識喪失、そしてスマートフォンを握りしめたままの脱力などが代表例です。
混同されやすい言葉に「居眠り」がありますが、両者には明確な境界線が存在します。居眠りとの違いは、主に持続時間と体勢にあります。居眠りは電車内や講義中など、座った状態で数秒から数十分程度、浅い睡眠段階(ノンレム睡眠のステージ1〜2)にとどまり、揺れや物音で容易に覚醒する一時的なマイクロスリープです。一方の寝落ちは、そのまま本格的な本睡眠へと移行してしまい、朝まで数時間にわたって不自然な姿勢のまま体を固まらせる点に決定的な差異があります。
さらに見過ごせないのが、医療現場で懸念されている気絶睡眠との違いです。「ベッドに入った瞬間に秒速で眠れるから自分は快眠体質だ」と思い込んでいる人がいますが、睡眠科学において健康な成人の入眠にかかる標準時間(入眠潜時)は10分〜20分と定義されています。横になって5分未満で意識を失う状態は、体がリラックスして眠りに入ったのではなく、脳内に蓄積した睡眠物質「アデノシン」の圧力に耐えかねて大脳皮質が強制シャットダウンを起こした状態、すなわち「気絶」と同義です。寝落ちを繰り返す日常は、体が極限状態で発している悲鳴そのものなのです。