純粋な芸の極致を語った表現が、なぜ接客業における理不尽な力関係の象徴へとすり替わってしまったのでしょうか。背景には、日本の戦後経済成長と商業主義の進展が深く関わっています。
高度経済成長期からバブル期にかけて、小売・外食・百貨店を中心とするサービス産業は急速に拡大しました。他社との差別化を図る中で企業が掲げたのが「顧客至上主義」です。その際、大衆に圧倒的な知名度を誇っていた三波氏のキャッチーなフレーズが、文脈を完全に切り離された形で企業研修や販売現場のスローガンとして都合よく流用されました。
さらに、1970年代から80年代のテレビバラエティ番組でお笑い芸人たちが「お客様は神様でございます!」と過剰にへりくだるパロディを演じたことで、「客が絶対的に偉い立場である」というイメージが世間一般に定着してしまいました。
この結果、現場では深刻な弊害が噴出します。金銭を支払う側が過剰な特権意識を抱き、「客の言うことに口答えするな」「神様に対する態度ではない」と従業員に土下座や過度な値引きを強要する悪質なクレーマーを生み出す温床となったのです。