ファーストラウンド終了時点で、下馬評通り王座に最も近いと目されていたのはオズワルドでした。松本人志氏が96点、オール巨人氏が96点をつけるなど、審査員7名全員がファーストラウンドの最高評価を下し、完璧な構成と緻密なしゃべくり漫才で会場の空気を掌握していました。
しかし、最終決戦の舞台で風向きが劇的に変化します。最終決戦のネタ順は、ファーストラウンド1位のオズワルドが「3番手」、2位タイのインディアンスが「1番手」、錦鯉が「2番手」を選択しました。ここで錦鯉が披露したのが、伝説となった「猿捕獲」のネタです。
「森に逃げた猿を罠で捕まえる」という極めてシンプルかつ不条理な設定のもと、長谷川雅紀が床に突っ伏して暴れ回り、渡辺隆が「痛えだろ!」と正確無比なタイミングで強烈なツッコミを叩き込みました。テレビ特番の密着ドキュメンタリーや後の自著でも明かされている通り、二人は「理屈ではなく、頭を空っぽにして笑える極限のバカ」をストレートにぶつける勝負に出たのです。
結果、最終投票では錦鯉が5票(オール巨人、上沼恵美子、立川志らく、塙宣之、松本人志)を獲得。オズワルド(中川家・礼二の1票)、インディアンス(富澤たけしの1票)を圧倒して第17代王者に輝きました。
松本人志氏は講評で「最後のバカバカしさが突き抜けていた。あそこまでやられたら誰も勝てない」と絶賛。審査発表直後、同じ漫才協会で苦楽を共にしてきた塙宣之氏や、同じく苦節の時代を知る富澤たけし氏が涙を流しながら「諦めないでよかった」「本当に報われてよかった」と声を詰まらせた場面は、M-1グランプリの歴史における最高潮のエモーショナルな瞬間として記録されています。