追跡の果てに、柳生十兵衛は秘伝書を携えた手強い刺客たちと対峙します。ここで描かれる戦闘は、必殺技が飛び交う派手な少年漫画的演出とは対極に位置します。刃と刃が触れ合う直前の間合い、衣服の擦れる音、呼吸の乱れ、そして一撃で勝負が決する柳生新陰流の「無刀取り」の思想が、圧倒的な画力で紙上に定着されています。
物語のクライマックスにおける風の抄のネタバレ結末は、勝者と敗者を単純に分断する勧善懲悪では終わりません。十兵衛は首謀者である公家や凄腕の剣客を追い詰め、秘伝書の奪還に成功するものの、そこには幕府という巨大な権力装置を守るために払われた、名もなき武士たちの過酷な犠牲が横たわっていました。
朝廷側の蜂起計画は水面下で完全に圧殺され、歴史の表舞台にその真相が記録されることはありませんでした。任務を果たした十兵衛が、泰平という名の冷徹な秩序を見つめながら独り立ち去るラストシーンは、読む者の胸に深い余韻と哀愁を刻み込みます。この抑制された幕引きこそが、本作を凡百の時代劇から隔絶した傑作へと押し上げています。