現場取材や当事者コミュニティ(SNSや当事者会)の声に耳を傾けると、医療機関での診断名がついたことに対する安堵感と、その後に訪れる現実的な葛藤の二重構造が鮮明に浮かび上がってきます。
大手IT企業に勤務していた30代男性のAさんは、手記やインタビューで次のように語っています。
「自分は努力が足りない怠け者なのだと10年間思い詰めていました。上司に怒鳴られるたびにトイレで吐き気を催し、過呼吸で倒れる日々でした。診断が下りた瞬間、涙が止まりませんでした。『自分の性格の破綻ではなく、脳の回路の仕組みだったのか』と知ったことで、初めて死にたい衝動から解放されたのです。しかし、診断がついたからといって職場の業務が自動的に簡単になるわけではありませんでした」
この告白が象徴するように、診断はゴールではなく、現実的な生存戦略のスタート地点に過ぎません。さらに深刻なのは、周囲に馴染もうと極限まで無理を重ねた結果発症する発達障害の二次障害としてのうつ病や適応障害です。
自著や体験談を公開している女性当事者の手記でも、周囲の「普通」に合わせるために会話のリアクションを何パターンも暗記して演じる「カモフラージュ行動」を続けた結果、慢性疲労症候群や線維筋痛症、深刻なパニック障害を併発して休職に追い込まれたプロセスが生々しく綴られています。職場で最も疲弊するのは業務そのものではなく、大人の自閉症における職場の人間関係を破綻させないための神経のすり減らしなのです。