ネット上には「猫の口内炎にはサプリメントだけで完治する」「黒いシミはすべて悪性腫瘍だから即手術」といった極端な情報が散見されますが、これらは正しい獣医学的知見に基づかない危険な誤解です。
まず理解すべきは、猫の舌の構造とザラザラの役割です。猫の舌の表面には「糸状乳頭(しじょうにゅうとう)」と呼ばれるケラチン質の硬いトゲが無数に並んでいます。このザラザラは肉を骨から削ぎ落としたり、毛づくろいで被毛を整える重要な役割を担っています。しかし同時に、この構造ゆえに抜け毛や異物が絡みつきやすく、口内炎や腫瘍によって舌が動かしにくくなると、正常なセルフグルーミングが不可能になり全身の被毛が急速にボロボロになっていきます。
また、口腔疾患の治療に関する大きな誤解として「抗生物質やステロイドを飲ませていれば抜歯は不要」というものがあります。内服薬は一時的に炎症や痛みを鎮める対症療法に過ぎず、長期使用は耐性菌の出現や糖尿病、腎不全の悪化といった重大な副作用リスクを伴います。日本獣医歯科学会のガイドラインでも、難治性口内炎や進行した猫の歯周病や歯肉炎の治療法として、早期の抜歯手術(全臼歯抜歯・全顎抜歯)が最も根治率と長期QOLを高める標準治療として位置づけられています。
「歯をすべて抜いたらご飯が食べられなくなるのでは」と心配する飼い主も多いですが、猫の歯は主に獲物を捕獲・引きちぎるためのものであり、人間のようにすり潰す機能は持ちません。歯肉の激痛から解放されれば、抜歯後もドライフードを丸呑みして元気に完食できるようになる猫が大多数を占めます。