インターネット上の料理系掲示板やSNSにおいて散見される最大の誤解の一つに、「コチのような淡白な白身魚にはアニサキスは寄生しない」という危険な言説があります。これは完全な誤謬であり、重大な健康被害を引き起こしかねない盲点です。
厚生労働省および水産庁の注意喚起資料が示す通り、マゴチは小魚や甲殻類(エビ・カニ)を捕食する肉食性の底生魚であり、食物連鎖の上位に位置するため、内臓表面および腹壁周辺にアニサキス(幼虫)が寄生している確率は決して低くありません。特に釣獲後や水揚げ後に常温で放置された個体は、内臓から筋肉(身)へとアニサキスが移行するリスクが高まります。対策として、釣獲直後の速やかな内臓除去(現場での内臓処理)が極めて有効です。家庭で三枚におろす際も、サク取りの段階で強い光に透かして確認(バックライト透光検査)するか、薄造りに引く工程で身の中に白い渦巻き状の虫体が潜んでいないかを視覚的にダブルチェックする姿勢が欠かせません。万全を期すならば、マイナス20度以下で24時間以上冷凍するか、加熱調理を選択すべきです。
もう一つの盲点は、「皮の廃棄」です。硬くて口当たりが悪そうに見えるコチの皮ですが、実はトラフグに匹敵するコラーゲンとゼラチン質の塊です。三枚におろした後の皮引き作業で剥ぎ取った皮を捨ててしまうのは、旨味の半分を放棄しているに等しい行為と言えます。
皮引きを行う際は、尾側の皮の端を左手でしっかりと布巾等で掴み、包丁の刃をまな板に対してわずかに寝かせます。包丁を前後に動かすのではなく、包丁を固定したまま左手の皮を左右に細かく揺すりながら手前に引き抜くことで、身割れを起こさず均一に皮を引くことができます。剥ぎ取った皮は、熱湯に3〜5秒くぐらせてから氷水へ落とす「湯引き」を施し、細切りにして青ネギとポン酢、もみじおろしを添えるだけで、料亭の突き出しに匹敵する極上の珍味へと生まれ変わります。