サケのイクラやタラのタラコと異なり、スーパーの鮮魚コーナーでサンマの卵単体を見かけることはまずありません。一尾丸ごと購入してお腹を開いても、卵が入っていない個体が大半を占めます。この現象には、サンマの回遊ルートと産卵時期のズレが深く関係しています。
日本近海で水揚げされるサンマは、夏に親潮水域(オホーツク海や千島列島沖)で動物プランクトンをたっぷり食べて脂肪を蓄え、秋にかけて産卵のために太平洋を南下します。日本の食卓で「脂がのって最も美味しい」とされる8月下旬から10月の旬のサンマは、まさに産卵に向けたエネルギーを体に蓄えている移動中の状態です。
この段階ではまだ生殖巣(卵巣や精巣)が十分に発達しておらず、お腹の中には極めて小さな筋状の組織しか存在しません。本格的な産卵ピークは11月下旬から翌年春先にかけて本州中部以南の黒潮流域で迎えますが、その頃には体内の脂肪が卵へ移行し、魚体そのものの脂は抜け落ちてしまいます。つまり、商業的に最も価値の高い「脂ののった旬のサンマ」を狙って漁獲するため、店頭に並ぶ個体には成熟した卵が入っていないのです。