しかし、破竹の進撃は2018年1月26日に突如として暗転します。外部からの不正アクセスを受け、顧客から預かっていた約580億円相当の暗号資産NEM(ネム)が流出するという、金融史に残る大事件が発生しました。連夜開かれた記者会見において、スーツ姿の和田氏と大塚氏が深々と頭を下げる姿は、当時のテレビ各局で繰り返し報じられた記憶が生々しく残っています。
当時、最大の争点となったのはマルチシグ(複数署名)の未導入と、インターネットから隔離されたコールドウォレットではなくホットウォレットで管理されていたセキュリティ体制の甘さでした。急拡大するユーザー数と取引高に内部管理体制やインフラ整備が追いついていなかった構造的欠陥が、最悪の形で露呈した瞬間でした。
事件直後、破産も囁かれるなかで事態を動かしたのが、オンライン証券大手マネックスグループによる電撃的な救済買収でした。2018年4月、マネックスはコインチェックを約36億円で完全子会社化することを発表。自力での全額補償(日本円で約463億円)を成し遂げたうえでの買収劇は、金融業界に大きな衝撃を与えました。和田氏は代表取締役社長を退き、経営権を手放す代償として会社の存続と顧客資産の保全を果たしたのです。