『斉木楠雄のΨ難』において、照橋心美の美しさに当てられた男性陣が無意識に喉から漏らしてしまう降伏の合図「おっふ」。楠雄は作品初期からテレパシーで他者の思考を先読みし、心美の計算づくのあざとさや好意を冷ややかにスルーし続けてきました。そのため、「斉木だけは絶対に屈しない」というのが作品の絶対的ルールであると信じられていた節があります。
しかし、綿密な一次ソースの検証が示す事実は明快です。斉木楠雄は、作中で正真正銘の「おっふ」を口にしています。ただし、ネット掲示板やSNSで時に誤解されているような「照橋さんの色気や顔の良さに鼻の下を伸ばした」という凡庸な展開では決してありません。
彼が陥落したのは、照橋心美が掲げる「完璧美少女」としての恐るべき覚悟を目の当たりにした瞬間でした。他人の前では決して弱音を吐かず、常に理想のヒロインであり続けるために血のにじむような自己鍛錬を重ねる心美。その狂気的なまでのプロ意識と、周囲のあらゆる運命を味方につけてしまう規格外の天運を前にしたとき、楠雄の防壁に決定的な綻びが生じたのです。ギャグ描写としてのコミカルさを維持しながらも、実質的には強者同士の魂のぶつかり合いが生んだ歴史的瞬間でした。