禊殿の真価を理解するためには、社殿そのものだけでなく、その背後にそびえる高倉山(たかくらやま)の信仰構造を知る必要があります。禊殿は単なる分社ではなく、高倉山に鎮座する古代の巨石群、すなわち「磐座(いわくら)」を遥拝するための祭祀場として整備された歴史を持ちます。
主祭神として祀られているのは、神名帳にも名を連ねる根源神・国常立尊(クニノトコタチノミコト)をはじめ、天宇受売命(アメノウズメノミコト)、水分大神(ミクマリノオオカミ)などです。社殿は南向きに建てられており、拝殿から神座を見上げる直線上に高倉山の山頂磐座が位置しています。これは神社建築が成立する以前、自然の巨木や巨石そのものを神体として祀っていた日本古来の原初神道の姿を今に伝える極めて貴重な配置です。
また、高倉山には古代より伝わる神宝「六色石(むついろいし)」の伝説が存在します。天地開闢の際に宇宙の根源エネルギーが凝縮して生まれたとされる霊石で、白・黒・赤・青・黄の五色に透明または紫を加えた神秘的な鉱物と伝えられています。修験道の開祖である役行者(神変大菩薩)や弘法大師空海も、この高倉山の磐座で深い瞑想と水行を重ね、大宇宙の真理を体得したと記録に残されています。禊殿とは、人類が自然と神仏に対して抱いた最も原始的かつ純粋な祈りが宿る聖地なのです。