コミュニケーションの不全はどこから生じるのか。精神医学や臨床心理学の知見では、その背景に配偶者の自閉スペクトラム症(ASD)が存在する場合が多いと分析されている。相手の気持ちを推し量る「心の理論」の働きに特性があり、悪気がないままパートナーの感情的ニーズを無視してしまうのだ。
歴史的には、オーストリアの小児科医ハンス・アスペルガーの研究に由来する発達特性の理解が原点にある。かつてアスペルガー症候群と呼ばれたこの特性は、知的能力に問題がないため社会生活を問題なくこなす人物も多い。その結果、外では「好人物」「優秀な社員」と評価される一方、家庭内でのみ配偶者が冷酷な言動に晒されるという強烈な落差が生まれる。この二重構造こそが、周囲に被害を理解してもらえない悲劇を増幅させる。