仕事に対してストイックすぎた田中実さんにとって、家庭は唯一鎧を脱ぐことができる聖域だった。役作りに苦悩する夜、妻は静かにお茶を淹れ、言葉を挟まずにただ彼の話に耳を傾けたという。派手な外食や交遊よりも、自宅で手料理を囲みながら子供たちの学校生活を聞く時間を何よりも愛していた。
夫婦喧嘩らしい喧嘩もほとんどなく、お互いを一人の人間として尊重し合っていた関係性は、芸能界という浮き沈みの激しい世界において奇跡的なバランスを保っていた。妻が注いだ静かな愛情があったからこそ、彼はスクリーンやブラウン管の中で誰からも愛される人間味豊かな演技を届けることができたのだ。