平成の大相撲を語るうえで、武蔵丸光洋という巨星の存在を抜きには語れない。第67代横綱として君臨した現役時代、その規格外のパワーと重厚な立ち合いは対戦相手に強烈なプレッシャーを与え続けた。曙や貴乃花、若乃花といった名横綱たちとしのぎを削った死闘の数々は、今なお多くのファンの記憶に鮮烈に焼き付いている。
だが、親方となった現在の彼に、かつての豪胆さを力任せに押し付ける気配は微塵もない。「相撲は力だけじゃない。頭と心を使うんだ」。稽古場に響く声は低く、驚くほど穏やかだ。武蔵川部屋の稽古では、旧態依然とした根性論が徹底して見直されている。体を壊してしまえば先はない。横綱の頂まで上り詰めた経験があるからこそ知る、肉体の限界とケアの重要性が日々の指導の根底に流れている。